【イラン情勢下のドバイ不動産・関係者インタビュー⑤】「『安く買える』ではなく、『好きで買える』物件を」

地政学リスクが顕在化したドバイ不動産市場。マーケットは止まったのか、ズレただけなのか。最前線で売買・リスク評価に携わる5人の識者に、今現場で起きている変化と次の一手を聞いた。

2026年2月末以降、イランをめぐる地域情勢の緊迫化は、ドバイの不動産マーケットにも少なからず影響を及ぼしている。ツアー会社による視察ツアーの停止、各国バイヤーの動きの鈍化、メディアでの「先送り」報道──。今回はドバイ有数のデベロッパー Ellington Properties(エリントン・プロパティーズ)で日本人顧客を担当する竹原氏に、デベロッパー目線で見た「いま」のドバイ不動産マーケットについて聞いた。

Ellington Properties / 竹原直美 Naomi Takehara

問い合わせは「思ったほど減っていない」。視察ツアー停止と顧客動向

レジデンス共用プール。「水辺寄りエリアが強い」と竹原氏が語る理由が、この景色の中にある

── イラン情勢が報じられて以降、日本人顧客からの問い合わせ件数は、肌感覚として実際どう変わりましたか。

正直なところ、私自身はそんなに少なくなったとは感じていないです。もちろん、不動産視察ツアーがなくなったのは事実。ただこれは、ツアー会社側がツアーを組めない状況になっているからで、外務省の危険度レベル3の渡航情報が出ていれば、当然そうなりますよね。そのため、「ドバイの不動産への関心が冷えた」というのとは、ちょっと違う動きだと思っています。問い合わせベースで見ると、そこまで大きな変化は感じていません。

── 視察ツアーがなくなったということですが、エリントンの場合、来られた方は何を見にいらっしゃるんですか。オフプラン(建設前物件)が中心ですよね?

私たちは開発会社なので、ご案内するのはオフプランです。ツアーで来ていただいたお客様には、まずオフィスにお越しいただいて、弊社のご紹介と、これから販売する物件の説明をします。模型を置いてあるので、それを見ていただいたり、ショールームをご案内したり。まずは「ドバイ」と「エリントン」を知っていただくところから始める感じです。

そのうえで、すでに完成して建っている物件もご案内しています。オフプランだとどうしても中が見られないので、実際に建ち上がっているプロジェクトを見ていただくと、クオリティ、雰囲気まで、肌でわかっていただけるんですよね。必要があれば、購入予定のプロジェクトの建設地にもご一緒します。実際、こうした情勢下でも、今週は2組のお客様が日本からいらっしゃって、実際に案内をしました。

顧客から最も多い不安。「建設はちゃんと進んでいますか?」

吹き抜けのリビングを備えた大型住戸。「ご資産に余裕があれば、なるべく大きなお部屋を」──供給数自体が少なく、キャピタルゲインに有利

── 顧客から最もよく聞かれる、不安に関する質問のトップは何でしょうか。

一番は「建設はちゃんと進んでいますか?」ですね。特に、すでにご購入いただいている方からの確認が多いです。もう一つは、今の情勢を踏まえて「他のデベロッパーが特別なオファーを出していますが、エリントンは何かありますか?」というご質問です。支払いプランが緩くなったり、ディスカウントが付いたりしないか、というニュアンスですね。

── 実際にエリントンとして、イラン情勢下で支払いプランや購入条件を緩和するような対応は取られたのでしょうか。

はい、対応しました。お客様が不安なのは私たちもわかっていますから、感謝の気持ちをお伝えするという意味でも、ディスカウントもペイメントプランも、普段よりも柔軟に対応しています。例えば、賃貸保証プログラムです。今、安く買えたとしても、3年後・4年後のドバイがどうなっているか、誰にもわからないじゃないですか。「自分が買った物件をちゃんと借りてくれる人がいるのか」というのは、今の情勢だと余計に不安だと思うんです。「大丈夫です」と口で言うだけじゃなく、保証として形にする。それが賃貸保証プログラムです。管理は開発会社である弊社がすべて行います。例えば、8,000万円の物件をご購入いただいた場合、その7%にあたる560万円を、毎年お客様にお返しする。シンプルな仕組みです。

住民専用ジム。短期賃貸(民泊運用)にも、長期居住にも対応する

── 期間はどのくらいになるのでしょうか。

最大5年間です。ただ、これは物件が完成してからカウントが始まります。現在プログラムの対象になっている物件は、ほとんどが2028年末ごろに完成するので、そこから5年。プログラムはいつでも解約できるので、自分で住みたい、民泊で運用したい、別の仲介会社にお任せしたい、という場合も自由に途中で切り替えていただけます。先の見えないなかで、すごく安心していただけるポイントだと思っています。

── このプログラムが適用されるのは、これから発表される新プロジェクトも含まれるのでしょうか。

いえ、現在残っている特定のプロジェクトのみで、6プロジェクトです。これから発表される物件には適用しない方針。というのも、現在の在庫物件は、発売から少し時間が経っていて、価格が当初より上がっているんですね。「このプロジェクトが欲しかったけど、価格が上がってしまった」という方にとって、利益が確実に戻ってくる仕組みとしてご提案している、という位置付けです。

── 日本国内だと利回りはよくて4%が標準ですから、7%は大きいですね。

そうです。日本の不動産関係者とお話していたのですが、大都市でもよくて4%とおっしゃっていて。やはり7%は、日本のお客様にとってかなり魅力のある数字だと思います。日本でもドバイでも高い利回りを狙おうとすると、信頼できる仲介会社の担当者を見つけて、賃貸付けの戦略を組んで……となるので、結構ハードルが高いんですよね。

「売却したい」より「今だから買いたい」。情勢下で動いた日本人顧客

屋上テラスとプライベートプールを備えた最上層。希少性の高いカテゴリは、出口戦略を組み立てやすい

── 既存の日本人オーナーで、この情勢で「売却したい」というご相談はありましたか。

デベロッパーである私たちのところには、もちろん転売(リセール)に関するご相談も入ってきます。完成前でも40%以上をお支払いいただいた段階で売却する権利が発生するので、その手続きやサポートは行っています。ただ、「イラン情勢だから売りたい」という方は、ほとんどいらっしゃらないです。普段から一定数、40%支払い済みで売却を希望される方はいらっしゃいますが、今回それが特別に増えたという感覚はありません。

弊社の物件は、まずご自身で住んでいただきたいですし、投資というだけでなく、ご自身にとって大事な資産になるはずなので、できればきちんと完成までお持ちいただいて、その上でご判断いただくのが理想だと思っています。

── 逆に「こういう情勢だからこそ、今買いたい」と前のめりになっている日本人のお客様はいらっしゃいますか。

います。先月も2件ほど、ご成約をいただきました。これは正直すごいことであり、今の情勢で他国のお客様も全体的に動きはスローになっています。普段すごく動いている中国人チームでも、今はほとんど動いていない状況。そのなかで日本人の方からのご成約があったというのは、母数の小ささを考えても、なかなかの実績だと思っています。

── どういうタイプのお客様でしょうか。すでにドバイで複数保有されているような方ですか。

いえ、今回ご成約いただいた方は、海外不動産自体が初めてという方でした。

── そのお客様はドバイまで来て、決断されたのでしょうか。それとも日本にいながら?

日本にいらっしゃるまま決められました。実際、今までのご成約も含めて、おそらく90%以上はオンラインでのご決断ですね。現地にいらしてからご購入された方は、ほんの数名です。もちろん「いつかは来たいですね」とおっしゃる方は多いので、ご購入後にお越しいただくケースが多いです。

売れているエリアの傾向。「内陸」より「水辺」、安さより質

エリントン物件のレジデンスロビー。デベロッパーのデザイン哲学は、エントランスから始まる

── ここ数ヵ月で、エリントン全体として実際にご成約のあった物件の傾向はありますか。エリアや価格帯でいうと。

物件タイプはまばらで、価格帯も幅広いです。ただ、エリアで見ると傾向がはっきり出ています。内陸(インランド)よりも、人工島やダウンタウンが強い。Jumeirah Island(ジュメイラアイランド)や、海辺・水辺に近いエリア、ダウンタウン、DIFC方面、Business Bayあたりは、安定して売れています。昨日もBusiness Bayの物件がご成約いただいたばかりです。

── 結局のところ、これまで人気だったエリアが、この情勢下でもそのまま強い、ということでしょうか。

そうですね。「今だから安いところを買おう」という方は、弊社の物件には正直ほとんどいらっしゃらないイメージです。マーケット全体で見ても、トランザクション(取引)が動いているのは、知名度がある、クオリティが高い、少し豪華なプロジェクト。逆に売れにくくなっているのは内陸エリアだと思います。もし「とにかく安い」という基準で内陸物件をどんどん仕入れているデベロッパーがあるとすれば、将来的に在庫を抱える可能性は高いですし、貸そうとしても賃料が伸びにくい構造になっていくと思います。

価格帯は幅広いです。ただ、お客様には、もしご資産に余裕があるなら、なるべく大きなお部屋をおすすめしています。大きな部屋は供給数自体が少ないので、将来キャピタルゲイン(資産価値)を狙うときに有利ですし、賃貸保証プログラムが付くプロジェクトであれば、さらに安心感が増します。

購入の決め手。利回りでも、ビザでも、節税でもなく

ダウンタウンに近接する人気エリアで進行中のプロジェクト。「動いているのは、知名度の高い高品質プロジェクト」と竹原氏

── 初めてドバイで不動産を購入される日本人にとって、最終的な投資判断の決め手は何だと感じますか。利回りなのか、ゴールデンビザなのか、節税なのか。

全部ありますね。ビザのために買われる方も、節税のための方も、利回り重視の方もいらっしゃいます。ただ、私のお客様に関していえば、最終的に決め手になっているのは「ご自身がその物件を好きかどうか」なんですよね。「このプロジェクトが好きだから」という理由で買われている方が、一番多いです。

利回りの話ももちろんしますが、利回りはあくまで「予想」です。私たちも予想ベースでお話しせざるを得ない。そのため「自分が好きな物件なら、誰か借りたいと思うはずだし、誰か買いたいと思うはずですよね」というところで納得していただく形が多いです。ただ、弊社の場合は、他のデベロッパーのプロジェクトと比べて、在庫が少ないため、価値が上がりやすく、出口戦略を狙いやすいというのも強みだと感じています。

── イラン情勢下で、ローンチを先延ばしにしているプロジェクトはありますか。

おそらくこれは、ほぼすべてのデベロッパーが調整していると思います。完全に発表しないのではなく、たとえば4タワー構成のプロジェクトのうち1タワーだけを先行で出す、といった形で、規模を抑えながら出している印象です。少なくとも、平時のような大きなローンチイベントは、この状況ではほとんど行われていないと思います。

共用部の規模感が伝わる俯瞰。賃貸保証7%という数字の背景には、こうした共用部投資の厚みがある

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