ドバイ不動産と日本の税金|法人購入・出国税・相続の盲点を現地会計士が解説

「ドバイは無税」――そう聞いてドバイ不動産の購入を検討する日本人は多い。確かにUAE側では、賃貸収入や売却益への所得税・キャピタルゲイン税はかからない。しかし、日本に居住したまま当地の物件を保有・運用・売却すれば、日本側の税務はそのまま発生する。さらに「ドバイで法人を作って不動産を買う」「移住して資産を移す」といった一歩踏み込んだ設計には、思わぬ落とし穴が潜む。ドバイの日系企業向けに会計・税務を手がける会計士・岡本氏に、不動産にまつわる日本の税金の要点を聞いた。


岡本信吾(おかもと・しんご)

Alwasiq Management Consultants ジャパンデスク/公認会計士(CPA)。大手監査法人(EY)で5年間勤務後に独立し、東京都港区で税理士法人を開業。現在はドバイの日系企業向けに会計・税務サービスを提供している。Alwasiq Management Consultants は、ドバイのビジネスベイにオフィスをかまえる会計事務所。ジャパンデスクを有し、100社を超える日系企業の税務アドバイザリーを行っている。Email:shingo@alwasiq.net Web:https://alwasiq.net/jp/

法人でドバイ不動産を買う ―― 見落とされる「キャッシュボックス」の罠

―― CFC税制(タックスヘイブン対策税制)について。UAE法人税9%時代の今、ドバイのフリーゾーン法人は、どういう場合に日本で合算課税されるのですか。

岡本 合算課税される要件として、まず『ペーパーカンパニーではないか』『キャッシュボックス(ただの入金だけの口座)ではないか』を見る。そうであれば課税するケースがあります。さらに事業基準・管理支配基準といった4つの視点から『本当に実態があるか』を見ます。実態があれば日本で課税しないし、実態のないペーパーカンパニーであれば日本で課税する、というイメージです。

―― 要は『ちゃんと事業をしているのか?』という話ですね。

岡本 そうです。よくあるのは、ドバイで不動産を買いたい人。個人で買うと全世界課税で普通に税金がかかります。そこまで知っている人が『ドバイで法人を作って法人で買えばいい』となる。これは非常に多いのですが、その場合、基本的にはこの『キャッシュボックス』の論点に引っかかります。

―― お金を回すためだけの会社になってはいけない、と。

岡本 そうですね。さらに、ドバイのフリーゾーン法人は租税負担割合がほぼ確実に20%未満となるため、CFC税制の対象になりやすい点に注意が必要です。カギを握るのが「経済活動基準」(事業基準・実体基準・管理支配基準・所在地国基準または非関連者基準)です。これを1つでも満たさないと、会社の全所得が日本で合算課税されます。逆に4基準すべてを満たせば全所得合算は免れますが、それでも配当・利子・使用料・一定の賃貸料といった「受動的所得」だけは部分的に合算されます。ただし、その額が年2,000万円以下か所得の5%以下なら免除されます。

使わなくなったドバイ法人をたたむ ―― CFC税制の「解散特例」

―― 今年4月から適用されるCFC税制の『解散特例』。厳しくなる一方の税制の中で唯一の規制緩和、とも言われていました。使わなくなったUAE法人やオフショア法人の整理は、これでどう変わるのでしょうか。

岡本 これは前提から説明する必要があります。先ほどの『順に見ていく』判定でいうと、まず①完全子会社などであれば該当するのでイエス。②租税負担割合――ドバイは9%なので、一番低い税率区分に当たる。その場合は③と④の両方を見ることになる。③がキャッシュボックスやペーパーカンパニーの判定で、④が『ペーパーでもキャッシュボックスでもないけれど、本当に実態があるか』をさらに細かく見る事業基準のテストです。

今回の解散特例は、この④の事業基準に関わるものです。なぜかというと――実体があって事業をやっていた会社でも、いざ『清算します』となると、もう事業をやっていないことになり、その時点で合算課税になってしまうんです。現地でレストランや輸出入をやっていても、清算する以上は事業をやっていない扱いになり、合算課税で終了。でも、それでは会社をたためない、どうするんだ、という話になる。

―― 楽になるはず、という認識でしたが。

岡本 そうしたコンフリクトが生じているので、『清算のときは、あくまで特例的に事業基準を緩めて、合算課税しなくても済むようにしよう』というのが、この解散特例です。実は結構、マニアックな話なのです。

―― 余談ですが、会社をたたむときにもお金が必要なケースがありますよね。そのお金を払えない人が『国外に出られない』という問題があると聞いたことがあります。

岡本 実は、結構あります。それが全部片付かないとUAEを出られない。つまりトラベルバンで、空港を通れなくなるわけです。会社の清算もそうですが、判決が出て法的に確定してしまった場合は、すべて清算しないと出国できないのです。

日本の不動産は「誰が持っても」課税される ―― 出国税と不動産

―― 暗号資産は出国税の対象になっていないんですよね。1億円以上持っていても。

岡本 出国税は、「原則として」株が対象です。ちなみに不動産も対象にはなっていません。

―― 不動産も対象外なんですね。

岡本 不動産を持っている会社の株、いわゆる不動産化体株式は対象になりますが、不動産そのものは別で、日本に持っている不動産は、所有者が誰であろうと日本で申告しなければいけない、というルールです。ただ、法制度自体は、株については2010年あたりで止まっていて、『シンガポールに移ってから株を売る』というのを防いだわけですが、当時はクリプトのようなものを想定していなかった。クリプトは株と同等か、それ以上に持ち運びがしやすいですから。

相続対策としての不動産 ―― 「10年ルール」の正しい理解

―― 「親だけ海外に移住すれば相続税対策になる」という誤解がいまだに多いですが、正しい理解を改めて教えてください。親子ともに10年以上海外にいないといけない、というルールですよね。

岡本 そうですね。相続人・被相続人ともに10年以上海外に住んでいて、なおかつ国内資産ではなく国外資産のみが課税対象外、という整理です。日本にある不動産は、当然課税対象になります。

―― 日本の不動産は課税対象になってしまうから、それを売って現金化し、親子で10年以上海外在住し、親から子に渡せば課税されない、ということですよね。

岡本 そうですね。海外で一定期間経過した後、国外財産としての譲渡であれば課税対象外となります。

―― 子どもが日本の大学に進学した場合など、家族の一部が日本に戻ると、10年ルールにどう影響しますか。これは通算10年なのか、連続10年なのか。

岡本 「相続税・贈与税とも、渡す人(親)・受け取る人(子)それぞれについて、相続・贈与前10年以内に日本に税務上の住所があったかを見ます。通算年数ではなく、その10年間に一度でも日本に住所があればアウト(全世界課税)という判定です。ですから、子が日本の大学進学で帰国して生活の本拠が日本に戻れば、その子については住所ありとなり、10年のカウントは事実上リセットされます。再び国外財産を課税外で渡すには、出直しで10年超、日本に住所を置かない状態を作る必要があります

―― すでにドバイ在住の家族からの相続相談は、これまでにありましたか。ドバイにはまだ高齢の方が比較的少ないので、相続相談自体が少ないのでは、と思ったのですが。

岡本 おっしゃる通り、まだ多くはないですが、相続の話も増えてはきています。ただ、相続はあまり打ち手がないのが正直なところです。やり方としては、例えば、ドバイ不動産が今後上がっていく前提で、現時点で『3億円分をドバイ在住のお子さんに貸す』。そのお金で自由に運用していい、とする。そのお金で不動産を買って、最終的に8億円で売れたとしても、あくまで3億円は『借りたお金』なので、相続はその3億円に対してかかる。運用で得た5億円は子どもの成果であり、子どものものになる、という形です。今持っている財産を直接渡すと10年ルールに引っかかってしまうので、こうした形を取ることは可能です。

あとは、生活費の名目――扶養の範囲を超えない通常の生活費であれば、贈与にはなりません。生活資金として、贈与にならないレベルでうまく渡していく、ということも可能です。

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