【イラン情勢下のドバイ不動産・関係者インタビュー④】「この“再編”時期にどう取り扱い物件を広げられるかが楽しみ」

地政学リスクが顕在化したドバイ不動産市場。マーケットは止まったのか、ズレただけなのか。最前線で売買・リスク評価に携わる5人の識者に、今現場で起きている変化と次の一手を聞いた。
仲介会社(ブローカー)の現場では、何が起きているのか。買い手と売り手の双方を日々直接見ているブローカーは、今何を語るのか。今回はドバイで再販物件(オフプランのリセールを含めたセカンダリーマーケット)を主軸に手がける、フェニックス・リアルエステートの杉田氏に話を聞いた。日本人売主・買主の心理、価格交渉のリアル、淘汰されつつあるセールス、そしてここに来て静かに動き始めたアブダビ。デベロッパー目線では見えない、もう一段地に足のついたマーケットの景色がそこにあった。

問い合わせ動向──「思ったほど下がっていない」、現状維持と様子見が大半

── イラン情勢が報じられて以降、日本人顧客からの問い合わせ件数はどう推移しましたか? 増えた・減った・変わらない、ざっくりで構いません。
私の場合、メインで担当しているのはセカンダリーマーケット、つまりオフプランのリセールや完成済み物件のリセールです。日本人のお客様でいうと、すでにこちらに物件をお持ちの売主側の方が中心になります。なので、件数感としては以前と大きくは変わっていません。
売りに出されている方は、元々「ある程度は急ぎで売りたい」という状況の方が多いのですが、今回の情勢を受けて、「価格を落としてでも今売る」という方は本当にごくわずか。大半は様子見で、「ここは価格を落とさずに乗り切ろう」という現状維持型ですね。
── イラン情勢を受けて、全体としては相場は下がっていますか。
思ったほどは下がっていません。大半が現状維持です。元々急いでいた方がより急ぐ動きが多少あったり、価格は据え置きでも「オファーが入ったら検討する」という、柔軟な姿勢に変わってきている方は出てきています。デベロッパー側もほぼ同じで、価格自体を落としているところは少なく、ペイメントプラン(支払いプラン)の組み直しなど、条件面のフレキシビリティが上がっている。だから、買い手にとっては今、非常にいい状況ですね。
業界の風景の変化。「コア層が残り、余計なところがそぎ落とされた」

── 顧客から最もよく聞かれる、不安に関する質問は何でしょうか。
具体的な質問というよりも、「今後どうなりそうですか?」というざっくりとしたものが多いです。あとは、マーケットの状況を気にされる方ですね。お答えとしては、申し上げたとおり、大半は現状維持でそこまで変わっていません、と。ただ、将来の予測が立てづらく、流動資産に変えるために条件交渉に応じてくれる売主が以前よりは出てきているので、お得な物件は前より探しやすくなっているかもしれません、というご案内をしています。
── 情勢を受けて、業界自体にも変化はありますか。
デベロッパーもブローカーも、おそらく人数は減っています。お客様側も「今トレンドだから、旅行ついでに情報収集だけしておくか」という感覚で来ていた層がいなくなっているので、全体のボリュームとしては静かになっていると思います。ただ、本気のバイヤーや、すでに投資されている方──いわゆるコア層は残っていますね。ブローカーも、デベロッパー側のセールスも同じです。だから、余計なところがそぎ落とされたという意味では、仕事はやりやすい状況です。
── プロジェクト自体がキャンセル・延期されるケースはありますか。
プロジェクトのキャンセルは一つだけ連絡が来たのと、延期の状況に関しては追っていませんが、多少あるのではないでしょうか。デベロッパー各社のローンチ(新規発表)も、これまでのように数週間から数ヵ月に1度のペースでどんどん出していくスタイルではなく、ペースを落としたり、プロジェクトを絞り込んだり、という調整がかかっていると思います。
「30%減で買いたい」。情勢を逆手に取るバイヤーへの距離感

── 「今だから買いたい」と前のめりになっているバイヤーには、どう対応されていますか。
「マーケット価格から30%以下はないか?」と聞いてくる方には、正直はっきりと「ありません」とお答えしています。10〜20%減で良さそうな物件があればお知らせします、というくらいの距離感です。たまたま、本当に売り急いでいる売主が30%以上下げて出してくるなら別ですが、20%減・15%減で売り切れる売主をわざわざ口説いて、もっと下げさせるようなことはやりません。この状況があと半年・1年と続けば、状況は変わるかもしれません。ただ、現時点では、価格を落として売却まで至っているのは、社内の他案件を見ても、だいたい10%減ラインが落ち着きどころだと思います。
── 日本人オーナーで、10%程度の値下げに動いた方はいらっしゃいますか。
私の日本人クライアントでは、元々以前から売却されるご意向があり、早めに損切りをしよう、とご判断の早い方が1名だけいらっしゃいました。一方で、10件、15件、20件と保有しているような熟練の投資家層は、特定の物件への執着が薄く、「今のうちにキャッシュ比率を上げておきたい」という判断で、10〜15%減でもいいから買い手がいたら教えて、というドライな依頼を早々にされた方々もいます。これは日本人というより、グローバルな投資家層の話ですね。
成約物件の傾向。オフプラン中心、静かに動き出したアブダビ

── 御社の話として、ここ最近の成約物件の傾向を教えてください。
驚くことに、オフプランが結構売れています。もっとも、ドバイ市場全体としても、元から取引の70〜75%程度はオフプランと言われていますから、その構造がそのまま続いているとも言えます。
エリア・物件タイプで言うと、社内では「これはいい」とブローカー陣が一斉に動くプロジェクトに集中する傾向があります。ここ最近売れたのは、アブダビのオフプランです。特にADGM(アブダビのDIFCに相当する金融特区)のあるエリアの物件は動いています。
今回の情勢で、攻撃を受けた直後は「アブダビの不動産はどうだろう?」とブローカー仲間も身構えた瞬間があったのですが、ここ2週間ほどで、立て続けに10件ほどアブダビ物件の成約が出ました。そのデベロッパーは2026年分の支払い分を、物件価格の5%のみに下げ、来年以降に支払いを延期するプランの変更に加え、プロモーションをかけたのが奏功したのと、あとはライフスタイル面の魅力が大きいです。
子育て世帯にとっては、東京ディズニーランドが車で10分の距離に住めるようなものですし、ソルボンヌ大学アブダビ校、ルーブル・アブダビ、サディヤット島には文化・芸術の集積エリアと魅力的な要素が揃っている。少しゆっくりした生活を志向する方には、十分検討に値するエリアだと思います。
── 価格帯ではどういう傾向がありますか。
超高級帯は動きがストップした印象で、その売買層は一時ドバイから去った印象でしたが、ここ2週間ほどはまた高価格帯を買い漁ろうとするバイヤー達の問い合わせ+内覧も出てきたので、この記事が出るころにはさらに戻っているのではないでしょうか、
投資判断の決め手。利回り、ビザ、節税、そして「最新ニュース」

── 初めてドバイで不動産を買う日本人にとって、最終的な投資判断の決め手になっているのは何でしょうか。利回り、ビザ、節税、それ以外でしょうか。
すべての要素になります。利回りも5%くらいは難しくありませんし、投資ビザも取れます。相続税が存在しないという意味で、相続対策の文脈で関心を持たれる方もいます。
加えて、つい先週出たばかりのニュースなのですが、これまでは物件に紐づく不動産投資ビザの最低額が75万AEDだったのに対し、(ゴールデンビザではない)自動更新型の2年ビザ(インベスタービザ)に関しては、単独オーナーの場合、保有額にかかわらず、発行されるようになりました。これは大きな話です。日本ではあまり知られていない情報だと思いますが、こうした緩和策をスピーディーに打ち出せるのが、UAEという国の強み。情勢が動いた時に、政府として魅力的な制度を即座に出してきますよね。
── 日本人の場合、自国の安全リスクから他国に拠点を持ちたいというニーズは、欧米やアジア他地域に比べると少なめでしょうか。
日本人の方は、現在は他国ほど切実ではないかもしれません。ただ、地震や災害の問題はありますし、「いざという時の避難先を1つ持っておきたい」というニーズは、日本人にも一定あります。加えて、利回り目的で言えば、自分が来るときは自分の物件に泊まり、来ない時は短期賃貸に出す、そしてそれをすべて代行するプロがいるといった柔軟な遠隔運用が可能なインフラが整っているのは、ドバイの強みです。
── 円安の影響で外貨資産を持ちたい、という相談はありますか。
私のお客様から直接、そうした悩みを聞くことは、あまりありません。というのも、こちらに物件を持たれているような日本人のお客様は、すでに他の国にも資産を分散させているケースが多く、「円が落ちたから慌てて」という発想にはなりにくいんです。
「この先どのように取り扱い物件を広げられるかが楽しみ」

── 最後に、ブローカーから見て、現在のドバイ不動産マーケットを一言で表現するとどうなりますか。
実際のところ、パニックを起こすような値崩れはしていません。私自身、むしろこの「再編」時期にどう取り扱い物件を広げられるか、対象を広げ、あちこち見に行っている状況です。売り手の条件面のフレキシビリティは買い手にとって追い風で、新しいビザ制度のような追加の魅力も次々と出てきている。マーケットの背骨や既存の投資家達の肝の据わり方は、思っている以上にしっかりしているというのが、現場で感じている本当のところです。





