ドバイ不動産投資のリスク完全解説。現地のプロが語る11の落とし穴

ドバイ不動産投資が本来的に抱える構造的なリスクを体系的に整理する。話を聞いたのは、日本・タイ・ドバイと不動産業界に10年以上精通し、2022年からドバイ現地にて投資家の購入・管理・売却までを支援してきた戸山氏(CEO, YAMATO CAPITAL PROPERTIES)。リスクは「ある/ない」の二元論ではなく、「どこに、どの程度、どう備えれば」の解像度で捉える必要があるという。本稿は、高い解像度でドバイ不動産のリスクを読むためのチェックリストとなっている。
供給過剰リスク|「ドバイ全体」ではなく「エリア別」で見る

―― 2026年から2028年にかけて10万戸以上の引き渡しが予定されていると報じられています。需給バランスのリスクは現実的なシナリオでしょうか。
ここは一括りに「ドバイは供給が多いから危険」と捉えると、判断を誤ります。エリアによって供給量はまったく違うからです。
ダウンタウン5,000戸前後、ドバイマリーナ3,000戸前後、パームジュメイラ1,000戸前後程度の新規供給しかありません。土地がほぼ埋まっていて、すでに完成している物件が中心だからです。これらの開発済みエリアは、供給増による下落圧力をほとんど受けない可能性が高いです。
一方、これからのエリア、特にアルマクトゥーム国際空港周辺、いわゆるドバイサウスと呼ばれる地域は、供給予定量としては50,000戸前後とかなり多く、開発もこれからのエリアです。ドバイサウスの魅力としては、ワンベッドルームでも120万AED(約4,800万円)程度から購入ができることが魅力ですが、「そこにどれだけの人が実際に移住してくるのか」という需要面を考慮する事が重要です。供給過剰リスクが集中しているのは、こうした新興エリアです。
―― エキスポシティはどう見ていますか。
エキスポシティとドバイサウスは隣接地域で、20,000戸前後の供給が予定されています。供給という観点では同じグループに入りますが、エキスポシティはすでにコミュニティとして開発中期段階に入っており、メトロのアクセスがあることや、エキスポシティ自体が独自のデベロッパーがインフラ整備まで担っているという特異性もあるので、別格の位置付けで見るべきだと思います。

流動性リスク|主要エリアは2〜3週間で売れる

―― 調整局面で本当に怖いのは、売りたくても売れない状況です。実際の売却期間と値引き率はどの程度ですか。
2025年の実績で言うと、ダウンタウンやドバイヒルズ、クリークハーバーといった主要エリアの物件は、市場に出してから早くて2〜3週間で売却まで持っていけるケースが多かったです。長くかかったケースは、オフシーズン(夏場)に売却に出した場合で、6ヵ月かかった例もあります。ただし、これも基本的にEMAAR、Nakheel、Meraasといった大手政府系デベロッパーの物件で、立地の良いエリアに限った話です。中堅以下のデベロッパーの物件や立地の悪い物件は、もっと時間がかかります。
―― 売却された物件の値引き率はどうでしたか。
2025年については、値引きをして売却したケースはほぼゼロでした。2025年に売却された方の多くは、2022年以前にオフプランまたはリセールで購入されているので、3年間の値上がり分がそのまま乗っている状態です。当時の購入価格と比較すると、最低でも20〜30%、キャピタルゲインを取って売却されています。
倒産・遅延リスク|大手は安全、新興は要警戒

―― エスクロー口座があるとはいえ、デベロッパーの倒産、プロジェクトの遅延、仕様変更のリスクは存在しますか。
売り上げがトップ5に入っているような大手デベロッパーの場合、倒産リスクはほぼないと考えていいです。EMAARクラスだと、万が一売上ゼロでも2年以上耐えられる財務体力があります。リスクが高いのは、初めてプロジェクトを立ち上げた新興デベロッパー。今のような情勢下では、新興デベロッパーは販売自体が難しく、倒産・プロジェクト中断のリスクが顕在化しやすいです。
工事遅延は、大手・新興問わず、どのデベロッパーでも約1年程度の遅延の可能性は織り込んでおいた方がいいです。これまではEMAARでも1年遅延した物件がありました。ただし、EMAARは2024年から計画・工事をすべて自社内で完結(インハウス開発)に切り替えたので、今後は遅延が大幅に減ると見ています。
―― 遅延に対する契約上の保護はあるのでしょうか。
実は、ほとんどの売買契約書には「1年の遅延は許容」という条項が組み込まれています。これは購入者が見落としがちな部分です。ただし、1年を超えて遅延した場合、契約に基づき、超過期間1ヵ月あたり1%程度の遅延金がデベロッパーから支払われる、という仕組みになっているケースが一般的です。
工事の進捗自体は、Dubai Land Department(DLD)が運営しているアプリで、自分の物件の工事完了率がリアルタイムで確認できます。
契約書の落とし穴|支払いプラン「2種類」の罠

―― EMAARが工事を高速化しているという話がありました。これは購入者にとってリスクにもなりうるとか。
これは非常に重要なポイントなので、しっかりとお伝えしたいです。本来「6ヵ月後、工事が20%進んだ時点で支払い」と契約書に書かれていたものが、実際には3ヵ月で20%まで進んでしまい、デベロッパーから「支払ってください」と請求が前倒しで来るケースが出ています。そして、資金繰りが追いつかず困っている購入者が、実際に出てきています。なぜこうなるかというと、ドバイのオフプランの支払いプランには、実は2種類あるからです。
―― 2種類の支払いプランとは?
1つ目は「工事進捗連動型」で、工事の進み具合に合わせて支払うタイプ。早く進めば早く支払いを求められ、遅れれば支払いも遅れる。2つ目は「期日固定型」で、工事の進捗とは関係なく、契約時に決められた日付で支払うタイプ。
購入者にとってどちらが有利かは、ご自身のキャッシュフロー次第です。一括で支払える方なら工事進捗連動型でも問題ありませんが、頭金30%・残りを工期中に分割で支払う計画の方は、工事が前倒しで進むと、資金準備が間に合わなくなる。
契約書のどちらのタイプで結ばれているか、購入前に必ず確認してください。期限を過ぎるとペナルティが発生します。エージェント側も見落としがちな部分ですので、確認していただきたいです。
共益費(サービスチャージ)リスク|完成まで実額はわからない

―― 購入後に判明するのが、年々上昇するサービスチャージ(共益費)です。購入前にどう見積もり、どう交渉すべきでしょうか。
まず前提として、サービスチャージは交渉できません。これはデベロッパーや管理会社と個別に交渉する性質のものではなく、建物の共益施設メンテナンス・スタッフの人件費・サービスなどの支出合計から算出され、RERAと呼ばれるドバイ政府の不動産規制機関が最終決定します。そして、もう一つ重要なのは、購入時点では「予定額」しか提示されないということです。完成して実際の運営が始まらないと、確定額はわかりません。
ただし、政府が管理しているため、デベロッパー側が法外な金額を恣意的に設定することはできない構造になっています。ドバイ不動産の経常的支出はサービスチャージくらいなので、「予定額×1.1〜1.15」のレンジで利回りシミュレーションを保守的に組んでおくのが、現実的な備えになります。
ゴールデンビザの落とし穴|売却前にビザキャンセルが必須

―― ゴールデンビザの取得を主目的に物件購入される方も多いですが、売却・住み替え時の手続きにリスクはありますか。
これも知っておかないとトラブルになるポイントです。ゴールデンビザを保有したまま、紐付けされている物件を売却することはできません。売却前に、いったんビザをキャンセルする必要があります。
対応策としては、新しい物件をすでに保有している場合、ビザ紐付けの「切り替え」が可能です。例えば、既存の物件と別に8,000万円の物件を新たに保有していれば、ビザを新物件に切り替えてから旧物件を売却する、という形でビザを維持できます。ちなみに、この切り替え手続きは1週間程度で完了します。永住権相当のビザが1週間で書き換えられるというのは、世界的に見ても異例の行政スピードだと思います。
売却時の本当のコスト構造|想定外の出費はあるか

―― 売却時に想定外で発生するコストはありますか。
基本的には、シンプルです。まず、売主側エージェント手数料が物件価格の2%+VAT。DLD登録手数料の4%は購入者負担なので売主は払いません。もう1つかかるのが「NOC(No Objection Certificate)」と呼ばれる、デベロッパーから発行される売却承認証明書の費用で、約5,000AED(約20万円)です。
ただし、このNOC発行にあたっては、サービスチャージ、電気・水道、エアコン代などの管理関連費用がすべて完済されていることが条件になります。未払いがあるとNOCは発行されないので、売却前に精算しておく必要があります。つまり想定外の大きなコストはないので、売却の流動性は高いと言えます。
日本での課税リスク|「UAEは無税」の罠

―― UAEは無税と聞いて購入した日本人が、後から日本で課税されて驚くケースはありますか。
購入時点でほとんどの方がきちんと確認されているので、驚くケースは少ないと思います。ただ、改めて整理しておきますと、UAE側でかかる税金は、購入時のDLD登録手数料4%、年間のサービスチャージのみで、賃貸収入・売却益への所得税やキャピタルゲイン税はゼロです。一方、日本居住者が当地の物件を保有・運用する場合、賃貸収入の確定申告、売却時のキャピタルゲイン課税、5,000万円超の海外資産は国外財産調書の提出義務など、日本側の税務はそのまま発生します。
これはドバイ側のブローカーには専門外の領域なので、日本の税理士に必ずご相談ください。日本とUAEは租税条約を結んでいるので、二重課税にはなりませんが、申告義務自体を怠るリスクは別問題となります。
テナント保護法(RERA)|退去も値上げも、意外にフェア

―― 一度入居したテナントを退去させるのは想像以上に困難という話を聞きます。実際どうでしょうか?
これは誤解されがちなのですが、実際には言われているほど困難ではありません。オーナーが退去を求める場合、契約満了の1年前までに「次回更新しません」というノーティス(通知書)をテナントに対して発行すれば、退去してもらえます。逆に、半年前や3ヵ月前では受け入れられません。1年前というルールが厳格に決まっています。
また、翌年の値上げに関しても、Real Estate Regulatory Agency(RERA)のRental Indexで上限値上げ幅が定められており、1年の最大値上げ幅は+20%になっています。オーナーが恣意的にそれ以上の値上げを通告することはできない仕組みになっています。言い方を変えると、「過剰なオーナー保護」も「過剰なテナント保護」もない、相対的にフェアな構造です。
観光地エリアのリスク|短期賃貸依存という弱点

―― ドバイマリーナ、ダウンタウン、パームジュメイラのような観光地化エリアと、DIFCのようなビジネスエリアでは、利回りリスクにどのような違いがありますか。
構造的に大きく違います。ダウンタウン・ビジネスベイ・DIFCのようなビジネスエリアは、長期賃貸需要、つまり仕事でドバイに住んでいる方が1年契約で借りる「実需」が背骨になっています。これに加えてAirbnbのような短期需要も乗ってくるので、利回りが二層で支えられています。
一方、パームジュメイラのような観光地は、生活エリアとしての適性が低く、Airbnbなどの短期賃貸でしか回せません。観光客が来ているハイシーズンには7〜8%という高い利回りが見込める代わりに、観光客が減ると一気に下がります。
今回の情勢下で、観光客はかなり減っています。パームジュメイラでホテル代が下がっているのと同じ構造で、Airbnbの賃料も急落しており、高い利回りを前提に高値で購入したオーナーには、かなり厳しい局面になっています。ドバイマリーナ、ダウンタウンは、DIFCと同じように通年で見込める可能性が高いと思います。
最大の構造リスク|「人口の9割が外国人」という現実

―― 戸山さん自身は、ドバイ不動産の構造的リスクとして何が最も大きいと感じますか。
ドバイ最大のリスクとして強く意識しているのは、人口の9割が外国人で構成されているという点。何らかの理由で外国人が来られなくなった瞬間、観光も実需も完全にストップしてしまう。今回のイラン情勢で、観光客減少を通じてその構造の一端が見えました。これは中長期で投資する以上、必ず頭の片隅に置いておくべきリスクだと思います。
もちろん、ドバイの生活者や観光客を惹きつけるためのインフラ基盤は年々強固になってきていますので、しばらくすれば長期居住者や観光客は再び戻ってくることが予想されます。ドバイの不動産投資にとってのポジティブな面としては、ドバイの平均利回りは6〜7%、税金や購入諸費用も少ないので、ネット利回りでも約5%が取れます。日本、シンガポール・香港、東南アジアと比べると、リスクを織り込んでも十分に魅力的な水準です。
プロが「自分は買わない物件」とは?
―― 率直に伺いますが、ブローカーとして「自分は買わない物件」「日本人におすすめしない物件タイプ」はありますか。
いくつかあります。一つずつお話しします。
1つ目は、民間デベロッパー(プライベートカンパニー)が単独で開発・運営しているコミュニティの物件です。これは政府系デベロッパー(EMAAR、Nakheel、Meraasなど)が開発するコミュニティとは、運営クオリティが根本的に違います。具体的には、コミュニティ内に入居するテナント(店舗・サービス)の選定が、政府系デベロッパーは厳しい審査基準を持っているのに対し、民間デベロッパーのコミュニティはハードルが下がります。低サービスのテナントが乱立し、コミュニティの治安・景観・客層が劣化していきます。コミュニティの質は、長期的に物件価格に直接反映されます。良いコミュニティは富裕層を引き寄せ、その富裕層がさらに価格と治安を底上げする好循環が起きる。逆も然りです。

―― 他にはどんな避けるべき条件がありますか。
2つ目は、供給戸数が過剰に多い物件。1プロジェクトで1,000ユニット、2,000ユニット規模の大型開発は、出口で必ず「同じ物件の競合」と価格・賃料で叩き合いになります。これは構造的に勝ちにくい。
3つ目は、特徴のない物件、眺望のない物件です。ドバイ不動産は「ビュー(眺望)」が価格を決定する最大の要素の1つです。同じプロジェクト内でも、海が見える、ヴィラ群が見える、公園が見える──こうしたビューが付くか付かないかで、再販時の流動性が大きく変わります。
まとめると、避けるべきは「民間デベロッパーのコミュニティ × 大量供給 × 眺望なし × 特徴なし」の物件。逆に狙うべきは「政府系コミュニティ × 限定供給 × 良ビュー × 何らかの特徴」を持つ物件、ということになります。
―― 良いコミュニティの具体例を挙げるとすれば。
私自身が住んでいるドバイクリークハーバーを例にお話ししますと、大きなセントラルパークがあって、毎日たくさんの方がウォーキング、ランニング、犬の散歩、子どもの遊び場利用で訪れています。物件を出てすぐにカフェやレストランも揃っていて、コミュニティの中で生活が完結します。ドバイの夏の暑さを考えると、「移動は少なめに、コミュニティの中で生活が成立する」というのは、東京の「駅近だから良い」とはまったく違う価値基準で、ここは日本人投資家が見落としやすいポイントだと思います。

ドバイ・アブダビを中心にUAE不動産の売買・賃貸・管理を一貫サポートする現地日本人運営の仲介会社。累計100件超の実績と自身でも不動産を所有していることを背景に、物件選定から購入後の運用まで実践的なアドバイスでお客様とパートナーとして伴走する。

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