【イラン情勢下のドバイ不動産・関係者インタビュー③】「すでにドバイ物件を持っている顧客が、さらに買い増そうとしている」

地政学リスクが顕在化したドバイ不動産市場。マーケットは止まったのか、ズレただけなのか。最前線で売買・リスク評価に携わる5人の識者に、今現場で起きている変化と次の一手を聞いた。

ドバイ最大級のブローカー・Driven Properties(ドリブンプロパティーズ)のジャパンチームを束ねているフセイン氏。600人越え規模のセールス体制と、アラビア語圏・GCC・国際投資家にまたがるネットワークを背景に、フセイン氏が見ているマーケットは、一段違うスケールの景色をしている。2016年から日本人投資家を担当してきた経験から、日本人顧客特有の動きと、世界の投資家の動きを並列で語ることができる希少な立場でもある。

Driven Properties / Hussien Nazeef フセイン・ナジーフ

来訪客は80〜90%キャンセルだが、問い合わせは増えた

月1回ペースで開催されるドリブンプロパティーズの日本でのセミナー。「日本人が来られない時期は、こちらが行く」とフセイン氏が語る通り、情勢下でも積極的に投資家にアプローチしている

── イラン情勢下で、日本人クライアントからの問い合わせはどう変わりましたか。

ドバイにいらっしゃる来訪のお客様は、約8〜9割がキャンセルまたは延長となりました。日本の外務省の渡航情報レベルが3に引き上げられているので、これは当然の動きです。「5月の予定だったが、6月、8月と様子を見たい」というお声が大半です。

一方で、日本からの問い合わせ自体は、ほとんど変わっていません。むしろ、すでに私たちから物件を購入されているお客様からのお問い合わせが、急に増えました。「大丈夫ですか」「賃貸はどうですか」「物件の値段は下がっていますか」──こうした既存オーナー様からの物件管理のご相談が増えて、私たちはむしろ忙しくなっているくらいです。

── ドリブンプロパティーズの日本セミナーは予定通り続けていらっしゃるとか。

私たちは1年間のセミナースケジュールが、ほぼ年初に決まっています。日本の不動産展示会のタイミングに合わせてセミナーを組んでいるので、ドバイ側の事情で変更することはほぼありません。

今年も1月、3月、4月、5月とほぼ毎月、日本に飛んでいます。理由は3つあって、1つ目はお客様に会いに行ける、2つ目はお客様が飛行機代もホテル代も使わずに済む、3つ目は今ドバイに来ることに不安を感じる方にもお会いできる。日本に行って感じるのは、現地のドバイ不動産への関心は、こうした情勢下でもまったく冷えていないということです。

法人は様子見、個人は二極化。「ドバイを信じる組」が動いている

ドリブンプロパティーズのジャパンチーム。600〜700人体制の社内ネットワークが、売り手と買い手のマッチングを最速で成立させる。4月のグループ取引は380件に達した

── 日本でお会いになっているお客様の動きはどんな感じでしょうか。

大きく2つに分かれます。1つは法人のお客様です。とくに大型案件、たとえば100億円規模の投資判断は、社内の合意形成に時間がかかるため、ほとんどが「いったん様子を見ましょう」となっています。これは予測通りで、こうした規模の意思決定は情勢が落ち着くまで動きません。

もう1つは、個人のお客様です。こちらはさらに2つに分かれます。「様子を見て決めたい」という慎重派と、「今ドバイ不動産が下がっているなら、今がチャンスだから買いたい」という積極派です。

── 「今がチャンスだから買いたい」という方の心理は、どういうものでしょうか。

これは私が「Cash Buyer(キャッシュバイヤー)」と呼んでいる層で、ドバイという街そのものを信じているお客様です。「ずっとドバイに住みたい、引っ越すつもりもない、今の戦争はドバイには関係ない」──こうした心境を持つ日本人投資家も一定数いらっしゃいます。「1億2,000万円だった物件が9,000万円で買えるなら、3,000万円も得じゃないか」という、きわめて合理的なご判断です。

オフプランは減少、セカンダリー市場が活性化。4月のグループ取引380件

民間大手デベロッパーがいま供給を牽引する。Binghatti、DAMACなどが新規ローンチを継続し、価格は維持しつつ支払いプランの柔軟化で需要を取り込む

── オフプラン市場全体の動きはどうですか。

オフプランは、正直に言うと販売数が減っています。EMAARや Nakheel などの大手政府系デベロッパーは、新規ローンチの数を意識的に減らしています。この情勢下でわざわざ大規模な発表をする必要はないという判断です。積極的に新規供給を出しているのは、DAMAC 、Binghattiなどの民間大手と、いくつかの中小デベロッパーです。アブダビ側ではAldarが直近で大型コミュニティのローンチを行ったばかりで、こちらは大変好調です。

── セカンダリーは活発になっている、と。

先月(4月)、弊社のグループ全体での取引件数は380件でした。これはセカンダリー売買、賃貸、それからキャッシュバイヤーによるオフプラン購入を全部合わせた数字です。なぜ、セカンダリーが動くかというと、構造はシンプル。売主側に「いますぐ売りたい」という方が一定数出てきている。買主側は「下がっているならチャンスだ」と動いている。両者をマッチングさせるのが、弊社のような大規模ブローカーの役割です。600〜700人のセールス陣がいるからこそ、売り手と買い手の情報が社内ですぐにマッチする、というスケールメリットが効いています。

「20〜30%下がった物件、ありますか?」。いちばん多い質問への答え

「デベロッパーが整備するコミュニティ」を選ぶことが、長期の資産価値を守る。緑、水景、コミュニティ運営の質が、ドバイ不動産では価格を決定する

── お客様から最も多い質問は何でしょうか。

トップ3を挙げるとすると、1つ目は「物件を持っているのですが、今売った方がいいですか、それとも待った方がいいですか」というアドバイスのご相談です。2つ目は、買い手側からの「20〜30%下がった物件、ありますか」というご質問です。3つ目は「今後、ドバイ不動産はどう動きますか。上がりますか、下がりますか、横ばいですか」という、未来予測のご相談です。

── 1つ目の「売った方がいいですか」には、どうお答えしていますか。

まず、今はバイヤーズマーケットです。買い手側が情報的に有利な状況にあるので、買い手は本当に良いディール、つまりディストレス(投げ売り)に近い物件しか買おうとしません。なので、こうお答えしています。「ニュースでミサイルが飛ぶ映像を見て、慌てて売却を決めるのはやめてください。冷静に考えて決めた方がいいです。怖くなって売る、が一番危険です」と。「資金に困っていなければ、待っていただくのが基本的に一番良い判断です」というのが、私のいつものアドバイスです。

── 2つ目の「20〜30%下がった物件ありますか」については?

私たちは仲介会社で、物件を成約させなければビジネスになりません。売れる物件があれば、私たちはどうにかして探します。そのうえで正直にお答えすると、「20〜30%下がった物件はあまりない」が結論です。

たまにあるとすれば、それは元々人気がない物件、立地が悪い物件、価格が当初から高すぎた物件です。そうした物件は、情勢に関係なく値下がりしているだけで、「お得な物件」ではありません。

なぜ良い物件が下がらないのか。オーナーの大半は資金に困っていません。困っていない人は、ミサイルのニュースを見ても慌てて売りません。だから、本当に困った売主が一斉に投げ売りする、という現象はドバイでは構造的に起きにくいのです。

オフプランで起きている変化。「価格は下がらないが、条件は柔軟に」

シェイク・ザイード・ロードに建つTrump Tower Dubai。日建設計(Nikken Sekkei)がデザインを手がけたことでも知られる350mの新ランドマーク

── オフプラン市場では、何らかの変化はありますか。

価格そのものは、ほとんど下がっていません。プライマリー(新築・初回販売)の価格は維持されています。ただし、デベロッパー側が条件面で柔軟になってきているのは確かです。たとえば、DLD登録手数料4%のウェーバー(免除)プロモーションを出しているデベロッパーがあります。

もう一つ最近顕著なのは、支払いプランの柔軟化です。これまでは完成前80%、完成後20%という構造が標準でしたが、最近は完成前50%、完成後50%、60:40や、頭金が20%だったが頭金10%など、もっとゆっくり払えるプランなど、本当に多様化しています。

ここ1ヵ月で爆発的に売れた物件。Jumeirah Bay の戸建用土地

子どもや家族連れで賑わうジュメイラエリアのカイトビーチ。観光客の減少が指摘される一方、ローカルや在住者の生活基盤としてのドバイは、いまも変わらず動き続けている。

── 御社で実際に成約された物件で、傾向のある事例はありますか。

いくつかありますが、ここ1ヵ月で爆発的に売れているのが、Jumeirah Bayの戸建用土地です。Mandarin Oriental Hotel の向かい側、Jumeirah通り沿いのプロットで、建坪700〜730平米、ベースメント+グラウンドフロア+2階+ロフトまで建設可能な仕様です。土地のみで7〜11ミリオンAED、つまり約2.5〜4億円のレンジです。先月は同時に18区画ありましたが、今は4区画しか残っていません。1ヵ月でほぼ完売です。

── 購入者の属性は。

これはエミラティ(UAE国籍)と、サウジアラビア、クウェートなどGCC諸国の方が中心です。完成後は10億円超で売れる見込みがある、というキャピタルゲイン構造です。これは日本人投資家には直接関係ないように見えますが、私が伝えたいのは別のメッセージです。「世界中のバイヤーがドバイに来られない時期に、ドバイのローカルが大きく動いている」という事実です。弊社のアラビア語SNS広告には、GCC各国から問い合わせが殺到しています。

── 日本人クライアントの動きでの傾向は。

はっきり出ているのは、アブダビ物件への関心が急増していることです。弊社もアブダビに支店を開設したばかりで、今現地の物件を本格的に取り扱っています。

注目のアブダビ物件。フリーホールド解禁から5年、まだ供給が薄い

海岸線に沿って整備された遊歩道と、ウォーターフロントの高級レジデンス群が並ぶアブダビのサディヤット地区。供給が薄く、希少性の高い好立地が、いま世界中の投資家から注目を集めている

── アブダビ市場の特徴を教えてください。

アブダビは、もともと供給戸数が世界的に見ても少なく、海外投資家に対するフリーホールド(永久所有権)が認められたエリアもごく限られています。Saadiyat、Al Reem、Yas Islandなど、4〜5エリアに集中しています。

しかも、フリーホールド解禁自体がドバイより遅く、約5年前です。この5年間で蓄積された情報量・供給量がまだ薄いんです。だからドバイのように物件選択肢が豊富ではなく、いいプロジェクトが出るとすぐに完売します。先月の段階では空きがあった物件が、1ヵ月で完売直前というケースが続いています。Aldar や Modon といった政府系大手の物件は、特に人気です。

── アブダビ人気は今後も続きますか。

続くと見ています。Saadiyat Cultural District(ルーブル・アブダビ、グッゲンハイム計画地、ザイード国立博物館など)の整備が一段と進んでいて、ライフスタイル面の魅力が世界から評価されています。ドバイの過密さに対する代替地として、特に子育て層・文化志向の富裕層からの引き合いが増えています。日本人投資家もこの流れに乗り始めている、というのが現状です。

投資判断の決め手。5つの要素とは

── 日本人投資家にとって、最終的にドバイ不動産購入の決め手になっているのは何でしょうか。

5つあると思っています。1つ目は、節税です。日本の不動産税制と比較すると、ドバイの税負担はそもそも構造的に小さい。これが最大の動機になっている方が多いです。2つ目は、ドバイの将来性への期待。「これからまだ伸びる街」という基本認識です。3つ目は、利回りの良さ。ドバイの賃貸利回りは悪くても5〜6%、平均的には6〜8%です。日本、シンガポール・香港と比べて圧倒的に高い。4つ目は、移住・教育移住です。インターナショナルスクールの選択肢が豊富で、子どもの教育環境を変えたい方からの動機になっています。5つ目は、ゴールデンビザの取得です。10年ビザを得て、銀行口座を開設し、UAE居住者としての地位を確立する。これは資産分散・将来移住への布石として機能しています。

ドバイの中心地ダウンタウン。Dubai Land Department のデータでは、不動産取引件数は前年同期比でプラス14%。マーケットの背骨は崩れていない

── 情勢下でいま「買いたい」と動いているお客様の属性は?

7〜8割は、すでにドバイの不動産を1個以上保有されている、リピーターのお客様です。こうした方々の心理はシンプルです。「ドバイのことをよく知っている。今回の戦争は数ヵ月で落ち着くと見ている。だから、いま安く出てきた物件があるなら、いまが買い増しのチャンスだ」という判断です。

残り2〜3割が、初めてドバイ不動産を購入される新規のお客様です。むしろこの情勢下で初めて買おうという方は、相応の覚悟と分析力をお持ちの方が多い印象です。

── 初心者ではなく既存投資家がメインということは、これはマーケットの強さの証左でしょうか。

そう見ています。「ドバイをよく知っている人が、今もドバイに張っている」というのは、市場として最も信頼できるシグナルです。見知らぬ初心者が群がっている市場よりも、すでにドバイで成功体験のある投資家が継続的に買い増している市場のほうが、長期で見て安定しています。これが、私が情勢下でも前向きに動き続けている根拠でもあります。

ドバイの不動産を知り尽くし、ほぼ月1回ペースで日本を訪問しているフセイン氏。ドバイ最大級ブローカーが見るマーケットの実像を語ってくれた

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ドバイで、資産になる暮らしを