【中東情勢下のドバイ不動産・関係者インタビュー②】「件数が減ったのではない、決定率が下がっただけ」

地政学リスクが顕在化したドバイ不動産市場。マーケットは止まったのか、ズレただけなのか。最前線で売買・リスク評価に携わる5人の識者に、今現場で起きている変化と次の一手を聞いた。
YouTuberヒカル氏や堀江貴文氏(ホリエモン)とのコラボレーションを通じてドバイ不動産販売を展開し、日本側マーケットへの強力なアクセスを持つドバイ屈指のブローカーカンパニー・DDクレスト。注目すべきは、代表の出倉氏が現在の情勢を「危機」ではなく「次のフェーズへの移行点」として捉えていること。社内クロスセールによる売主・買主のマッチング、ラス・アル・ハイマへの顧客需要のシフト、そしてドバイで2025年に法的に認められた不動産トークン化を活用したクロスボーダー金融商品の立ち上げ。短期の防御戦ではなく、攻めの設計図がそこにあった。

問い合わせは「件数」ではなく「決定率」の問題
── イラン情勢が報じられて以降、日本人顧客からの問い合わせ件数はどう変わりましたか。
肌感覚としては、明らかに数自体は減っています。ただ、これは表現の問題で、より正確に言うならば、「件数が減った」のではなく「決定率(コンバージョン)が下がった」というほうが実態に近いです。問い合わせ自体は来ています。ただ、「買いたいのですが、ちょっと様子を見ます」「状況が落ち着いたら、一度ドバイに来て、自分の目で見てから判断したいです」といった形ですね。こうした回答が非常に多くなっています。
── オンラインで物件を見ずに購入される、いわゆる「見ずに買う」層は、いま動いていますか。
ヒカルさんや堀江さんに動画で取り上げていただいたあと即決された層は、もうほぼ購入を済ませています。現在、私たちが抱えているのは、その後の見込み客で、元々「一度見てから判断したい」というタイプの方が中心です。先月時点では具体的な物件まで話が進んでいた方も、この情勢を受けて「いったん待ちます」という様子見状態に入ってしまっている、というのが今の構図です。

顧客の不安への回答──「DLDのデータは下がっていない、むしろ前年比+14%」
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── 顧客から最もよく聞かれる不安はどんなものですか。
大きく2つあります。1つは「今ドバイは安全なんですか」という、戦争状況下での生活安全の質問。もう1つは「不動産価値が暴落しているんじゃないですか」という資産価値への懸念です。すでに物件をご購入いただき、ゴールデンビザを取得されている方も多いので、安全面・資産価値の両方を心配される方が多いという状況です。
── 「不動産価値が下がっているのでは」という質問に、出倉さんは何とお答えしていますか。
正直なところ、3月単月で見ると、Dubai Land Department(DLD/ドバイ登記局)のデータでも問い合わせ件数自体は下がっています。ただ、「価値が下がっているか」と問われれば、答えは「ノー」です。不動産は株式と違い、一瞬で値が動くものではありません。お客様の中には株式と不動産の値動きを混同される方が多いので、まずそこを切り分けて説明しています。
そのうえで実データで言うと、DLDの最新発表によれば、不動産価値は下がっていません。それどころか、取引件数は前年同期と比較して14%増。むしろ上回っている状況です。なので、「ドバイの不動産が暴落している」というのは事実と異なります、とはっきりお伝えしています。
── 安全面については、どうお答えされていますか。
日本国を含む各国の渡航情報レベルが3に引き上げられているのは事実なので、その客観情報はそのままお伝えします。そのうえで、私自身ドバイに住んでいて、現在はほぼ停戦状態にあって、生活も普段とほぼ変わらない状況だと、現地の生活実感としてお伝えしています。安全面に関しては、今のところまったく問題ありません、というお答えです。
既存オーナー10名からの売却相談──情勢が引き金、社内クロスセールで決着

── 既存の日本人オーナーから「売却したい」というご相談はありましたか。
はい、10名ほどいらっしゃいました。ただ、元々完成タイミングで転売したいというお客様が半分くらい含まれていたので、純粋に「情勢を受けて売りたい」と動かれた方は、その残り半分です。中身を見ていくと、戦争を理由に売りたいというよりも、情勢悪化に伴ってご自身の事業のキャッシュフローが厳しくなり、手放したくはないけれど手放さざるを得ない、というケースが目立ちました。
── そうした売却希望は実際に成立しましたか。
はい。逆に投資家のお客様のなかには、「この情勢だからこそ、少しでも安く売りたい人がいるなら買いたい」という方も一定数いらっしゃいました。そこで、社内のなかでマッチングを行い、4〜5件はオーナーチェンジ(転売)で売買が成立しました。私たちの顧客リストはグループ全体で約1万人規模ですので、「今、こういう良い物件が通常価格より安く出ています、ご希望の方はお問い合わせください」とご案内すると、1週間程度で決まります。

── それは、御社の規模と顧客基盤があって初めて成立するモデルですよね。
そうですね。ただ、これは私たちにとっても明確なメリットがあります。安く購入していただけるということは、再販時のハードルが下がるということなので、私たち自身の出口戦略も組み立てやすくなる。売主・買主・私たちの三者が、それぞれ納得できる形で着地できるんです。私たちのほうから、いい物件が出たタイミングでグループ内に発信していくと、それに飛び乗ってくださる、という流れになっています。
── 情勢下でも新規で購入される方は、どんな属性でしょうか。すでにドバイで複数戸お持ちの方ですか。
今回に関して言うと、むしろ逆で、ドバイの物件をまだお持ちでない方、ドバイに来たことがない新規のお客様が中心でした。私たちはYouTube経由で新規顧客の開拓を継続しているので、その流入が情勢下でも止まっていない、ということだと思います。
成約物件の傾向──「ドバイより、Ras Al Khaimah(RAK)」

── ここ数ヵ月で、実際に成約された物件の傾向はありますか。価格帯やエリアなど。
価格帯で言うと、オフプランの当初価格より5%、もしくは10%安く買いたい、という問い合わせがほとんどです。そしてエリアの傾向で大きいのは、Ras Al Khaimah(RAK/ラス・アル・ハイマ)です。私たちはYouTubeを通じて、RAKのカジノ予定エリアを継続的にご案内してきたので、購入者の多くがRAKを選んでいます。RAKでご購入いただいた方からの転売案件もすでに動いていて、たとえばヒカルさんに動画でご紹介いただいた「Masa Residence」も、転売がすぐに決まりましたし、スタジオルームが出れば購入したいという待ち客が2〜3人いる状態です。
購入の決め手は「利回り」──そして利回りを「保証する」商品設計

── 初めての海外不動産で、最終的な決め手になっているのは何ですか。利回り、ビザ、節税?
私たちのお客様の場合は、利回りが最大の決め手になることがほとんどです。きちんとした実利回りが欲しい、という投資家目線が非常に多い。購入価格が8,000万円以上の規模になればゴールデンビザの対象になりますが、これは利回り目的で動かれた結果、後追いでビザ要件を満たすケースが多いという感覚です。あくまで主目的は利回り、ビザは付随、という順番ですね。
── 利回りはセンシティブな数字でもあります。「言ったほど出ていないじゃないか」というクレームに繋がりやすいですよね。
おっしゃる通りで、私たちは強気の数字は出しません。具体的には、自社物件と同程度のランクの競合物件の価格帯と利回りを調査し、それをベースに保守的にシミュレーションを出しています。RAKならカジノ稼働後の前提で10%以上は出るだろうと内部では見ていますが、お客様には「8〜10%出ます」とレンジでご案内する、という形です。
── そして、最近は「利回り自体を保証する」商品設計も進めていらっしゃるとか。
そうですね。現在の情勢で「実質利回りが出ないんじゃないか」と止まっているお客様への直接的な答えとして取り組んでいるものです。具体的には、デベロッパー側と一緒に「3年間、実質利回り○%を保証します」という商品をこちらで設計します。出口を最初から作ったうえで販売する、という形です。
次の一手──不動産トークン化とクロスボーダーセールス

── もう一つ、現在動かしている大きなプロジェクトがあると伺いました。
はい。日本のファンド会社(金融ライセンス第一種保有)と、政府機関と提携を進めていて、不動産物件をトークン化して金融商品として販売するプロジェクトです。
実はドバイでは、2025年3月にDLDが、VARA(Virtual Assets Regulatory Authority/仮想資産規制庁)およびDubai Future Foundationと共同で不動産トークン化のパイロット・プログラムを正式にローンチし、続く5月にVARAが関連規則を整備しました。
さらに2026年2月からは、トークン化された不動産を二次市場で再売買できるフェーズIIにも移行しています。私自身も元々、不動産は金融商品化したほうがいい、と前々から考えていました。今回の情勢が、そのタイミングを早めた格好です。
── 具体的には、どのような商品設計になるのでしょうか。
小口投資が前提です。たとえば1口300万円から不動産物件に投資できる仕組みで、エスクロー口座管理もすべて含めたプラットフォームを構築中です。先ほどの利回り保証もこの商品に組み合わせるので、「投資家が自分で物件を購入し、テナント付けをしてリターンを取りに行く」という従来モデルに比べて、参入ハードルが大きく下がります。実際の商品設計では、日本側の課税──株式譲渡益と同様の20〜30%の課税──も織り込んだうえで、最終的な手取り利回りでお客様にご提示できるよう、利回り設定をしています。
── 日本にお住まいの方からも購入できる、ということですね。
いわゆる「クロスボーダーセールス」というカテゴリで、国を跨いで小口商品を販売できる体制です。日本側でのライセンスもすでに取得済みで、プラットフォームの構築が完了次第、キックオフできる見込みです。ドバイ側でこの形が法的に認められたのはごく最近で、不動産会社でこのスキームに動いているところは、おそらく現時点ではいません。私たちは、ここで一気にパイを取りに行きたいと考えています。
── ドバイ不動産版の「リート(REIT)」のような感覚に近いですか。
はい、構造的にはまさにリートに近い概念です。今回の情勢で多くの方が感じている「自分で物件を買って、テナント付けをして、リターンを得るのはハードルが高い」という不安に対して、戦争や情勢に左右されにくい「商品化された不動産投資」という選択肢を提示する。これが、いま私たちが描いている方向性です。
情勢を「フェーズ転換のトリガー」として使う

── 最後に、いまのドバイ不動産マーケットを出倉さんはどう見ていらっしゃいますか。
繰り返しになりますが、件数は減っていますが、決定率の問題であって、本質的な需要が消えたわけではありません。DLDのデータも下がっていない。マーケットの背骨はしっかりしています。ただ、お客様側の心理的なハードルは確実に上がっている。だからこそ、これまでの「個別物件を売る」モデルに加えて、「利回りを保証する商品」「小口でトークン化された金融商品」といった、戦争・情勢に左右されにくい商品設計に踏み込んでいくことが、今のフェーズで必要なのだと思います。危機ではなく、フェーズ転換のトリガーとして使う──それが、私が今回の情勢に対して取っているスタンスです。

